家具・インテリア情報 社説

大塚家具の報道を問う




株式会社 東洋ファニチャーリサーチ
代表取締役社長 阿部野 育三


 3月27日、株式会社大塚家具(本社:東京都江東区有明3-6-11、社長:大塚久美子氏)の株主総会が開催され、会社側の大塚久美子社長が提出した提案が賛成多数で可決された。また、大塚勝久氏が自らを取締役に選任するべきとした株主提案は否決され、大塚勝久会長と久美子社長の経営方針をめぐる対立に終止符が打たれた。これにより、勝久氏は会長職を退き、久美子社長の提案による社外取締役6名を含む10名の取締役選任が取締役会において決議された。

伝えることの重要性と伝えないことの重要性


 今回の大塚家具の会長と社長の対立は多くのメディアで「内紛」「骨肉の争い」として取り上げられ、国民的行事にまで仕立て上げられてしまった。そういった大塚家具に対する報道に対して弊社が取ってきたスタンスをここでご説明しておく。弊社では、今回の事案に対して、家具業界誌として「時事彩々・大塚家具の報道」(2月23日発刊号)と「大塚家具中期経営計画を発表」(3月9日発刊号)で取り上げた。前述の時事彩々においては一連の過熱報道に対する違和感を述べ、後述の中期経営計画については同社の今後の経営方針を占うものとして報道した。しかし、それ以外には一切の報道を差し控えてきた。また、今回の事案について、他のメディアや株主から与信会社としての意見を求められることもあったが、すべてお断りしてきた。それは、企業の経営方針の対立に対して、メディアとして対立する方針のどちらかに優劣を付け、一方に加担をすることは著しくメディアとしての公平性を欠く行為だと判断したからだ。実際、新聞各紙はもちろん、派手な見出しで報道を続けたワイドショーや週刊誌でさえも、会長と社長を含めた一族の対立や人間ドラマは囃し立てるものの、どの経営者を応援する、または支持をするといったことを表明するメディアはみられない。


過激なタイトルで煽る記事


 ところが、長年刊行されてきたある家具業界紙において、同じ立場に立つ身として到底看過しえない報道がなされていたのでここに弊社としての意見を述べておく。その記事のタイトルは「大塚家具の栄光と闇-近親憎悪の内紛劇-」という過激なタイトルのものだ。内紛劇とはどういう意味か?そもそも今回の大塚家具の問題は会長と社長の経営方針をめぐる対立にある。それが父娘という関係であったがゆえに、週刊誌やワイドショーなどで騒がれているだけの話だ。記事中には久美子社長の人間性を否定するかのような表現まであり、その立ち位置は明らかに大塚勝久氏を持ち上げるものだ。シリーズ連載されるようなので次回の連載がどのような内容になるかは分からないが、株主総会の前にどちらか一方に偏重した報道がなされたのは残念で仕方がない。物事の本質はあくまでも経営方針の対立のはずだ。そして、それを株主総会において信を問うということは法的に定められた手法に則ったものであり、何ら恥ずべき行為ではない。一般大衆紙ならともかく業界紙が、なぜ株主総会の直前に久美子社長を冷血漢のように書き立て、勝久会長の栄光を称賛する記事を掲載するのか理解に苦しむ。


業界団体が一企業の経営問題に介入


 そして、その業界紙の社長が主幹を務めるのが、多くのマスコミに名前が出た「家具経済同友会」であることは多くの家具業界の方がご存じであろう。そして、一般メディアで取り上げられたところによると、この家具経済同友会があたかも家具業界を代表する団体であり、その団体が会長の勝久氏を支持するという。前代未聞である。任意団体とはいえ、その行為は一経済団体が民間企業の株主総会での議案に対して票の取りまとめをするということに他ならない。その経済団体には、大塚家具とはライバル関係にある家具小売店も多く含まれている。ワイドショーでよく引き合いに出されたニトリも加盟社に名を連ねているはずだ。そして、大塚家具はこの団体に加盟していない。つまり、単純化してみれば、加盟社以外の企業の経営問題にライバル会社が集まった団体が介入している構図になる。以下に大塚勝久氏側が発表した家具経済同友会の表明文を掲載する。


家具経済同友会の表明文


  「日本最有力の家具業界団体 家具経済同友会 大塚家具 大塚勝久氏主導の正常化に期待を表明」
 家具経済同友会は、日本全国の家具販売、卸、メーカーなど家具業界を代表する55社から構成される家具業界における最有力の業界団体です。家具経済同友会は、1995年に設立されて以来、日本のインテリア市場の活性化及び家具業界の発展のため努めてまいりました。
 大塚家具は家具経済同友会に加盟しておりませんが、家具経済同友会には、株式会社大塚家具(以下、「大塚家具」)の多くの主要な取引先及び大塚家具株主が含まれております。日本全国の家具メーカー等と取引を有する大塚家具は日本の家具業界に大きな影響を与える存在であり、日本の家具文化を支える大きな柱でもあります。家具経済同友会は、この度の大塚家具における経営権争いの報道に接し、この問題が長期化することで、消費者からの業界信頼の失墜や取引先を始め家具業界関係者各位に影響が及ぶことを懸念しております。
 家具経済同友会は、日本の家具業界の更なる発展という観点から、家具経済同友会の総意として、家具業界のリーディングカンパニーを築き上げた実績を持つ大塚勝久氏の主導のもと、早期の事態正常化を望むことを表明いたします。以上」


家具業界のイメージが失墜


 全文をみれば自らの団体を「家具業界における最有力の業界団体」と持ち上げ、「家具経済同友会の総意として」大塚勝久氏への支持を表明したということになる。勝久氏支持の理由は「この問題が長期化することで、消費者から業界信頼の失墜や取引先を始め家具業界関係者各位に影響が及ぶことを懸念」したという。これには大いに遺憾だ。そもそも経営権争いは株主総会で終結をみる。もちろん、勝久氏は今後も大株主であることに変わりがないが、3月27日の結果で加熱するマスコミ報道が一旦鎮静化するのは誰の目にも明らかだ。それを総会の一週間前に声明を発表して、加熱する報道に油を注ぐ結果となったのは周知の通り。消費者からの家具業界への信頼の失墜を心配されているようだが、経済団体が一企業の経営問題の片棒を担ぐという印象の方がよっぽど消費者からの信頼を失う行為ではないだろうか。事実、インターネット上では、「ライバル会社が集まった団体だから大塚家具に低迷して欲しくて会長支持を表明しているのだろう」といった指摘も多い。これが消費者の生の声だ。まるで家具業界全体が閉鎖的でライバルを蹴落とすために手段を選ばない独特のルールを持った業界という印象を与えてしまっている。一般報道でも盛んにイケアやニトリの名前が出るが、一般消費者にしてみれば新しい家具小売店が勢力を伸ばすなかで、旧態依然としたその他の家具小売店が足の引っ張り合いをして自滅しているように思われても致し方ない事態だ。


売名行為のスタンドプレー


 また、表明文は家具経済同友会有志一同という名で発表されているが、その表明は「家具経済同友会の総意」だとする。そこで、加盟企業の代表者数名に真意を確認するため問い合わせてみた。連絡がつき、確認できたのは数名だが、驚いたのは「決議はなかった」「まったく知らされていない。寝耳に水だ」「今回の同友会の発表はうちとは一切関係がない。大塚家具は主要な取引先で知らなかったとはいえ、これからお詫びにいかなければならない」との回答が返ってきたことだ。この団体の総意がどのような手順で決定されるのかは知らないが、あまりにもお粗末なスタンドプレーと言わざるを得ない。また前述した同業界紙の記事「大塚家具の栄光と闇」において、取材依頼が殺到し、2週間足らずで4本の番組に出演したとして取材を受ける当人の写真まで掲載されている。文中の表現と使用写真を見れば、そこから読み取れるものは今回の騒ぎに便乗した売名行為に他ならない。その姿ははなはだ滑稽でもある。さらに、取材インタビュアーが大塚家具を報道するのは「視聴率が取れるから」と答えたことを受けて、日本の大衆文化のレベルの低さにガッカリしたと書かれておられるが、その一般メディアに話題作りのための格好の材料を提供し、いいように利用されているのはどなたなのか再考を願いたい。


業界全体を巻き込んだ行動に猛省を


 私どもは家具業界の与信会社として誕生し、業界誌「ルームファニシング」を半世紀にわたって世に送り出してきた。それは私たちが発信する情報が皆様のビジネスのお役に立ち、そして業界のさらなる発展につながっていってほしいという願いからである。活動の場をアジア諸国を中心とした海外にまで広げたのも、日本の家具業界のビジネスチャンスがそこにあると考えたからに他ならない。いわば、日本を含むアジアの家具業界は私たちのフィールドであり、職場である。私たちと同様の思いを抱いて欲しいとまでは言わない。しかし、私たちが誇りを持って共に歩んできた家具業界が不当に貶められるのは許しがたい。業界紙は誰のために何を報道していくべきか?本来は自らが業界の発展を守っていくために行動しなければならないのではないか?今回の事態に関して、当事者が家具業界を貶めようと意図した行動ではないと信じている。しかし、メディアの報道合戦に安易に足を踏み入れ、取り返しのつかない事態に巻き込まれることは誰でも容易に想像できたはずだ。今回の大塚家具に対する一部報道とそれを引き起こした団体行動は許しがたい誤った行為である。失った信用を取り戻すことはかなりの困難を極めるだろう。それゆえ猛省を促すものである。


株主総会後はノーサイドへ


 これほどの過熱報道にさらされた大塚家具の痛手は大きく、今後その業績を回復していく道は茨の道となるだろう。だが、与信を専門とする我々の眼からみて、大塚家具は非常に健全な企業であり、一般的な家具業界の小売業者と比べて、その信用内容は非常に安定しているといえる。
勝久会長と久美子社長のお互いが代表を行っていた昨年の業績低迷ばかりがクローズアップされているが、消費税率アップ後の家具業界は夏場以降ほとんどの企業が業績を落としており、その点は誰が経営を主導してもそもそも厳しい業績推移であっただろう。
 大塚家具の株主総会で、「お祝いごとで家具を買う人が親子喧嘩をしているところから家具を買いますか」という意見があったらしい。的を得た発言であり、これからの大塚家具の経営が多難であることを暗示している。しかし、株主は久美子社長の経営を支持したわけであり、久美子社長にはそれに応える義務も発生している。今回の一連の出来事をメディアで騒がれるような父娘喧嘩で終わらせないためにも、今後の取り組みに期待したい。久美子社長は、株主総会後の記者会見で、かねてから口にしていた「株主総会後はノーサイド」という言葉を改めて強調した。それは今後、経営者、社員、取引先が一丸となって業績回復に取り組む決意表明であり、家具業界を活動の場とする我々としても、それを切に望むものである。



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